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会話で相手と交替するまで平均0.2秒。この一瞬にどんな高度な駆け引きや奇跡が起きているのか──言語学の歴史を大づかみに振り返りつつ、「食べログ」レビューからお笑いに日銀総裁の会見、人気漫画まで俎上に載せ、日常の言語学をわかりやすく伝える、待望の書き下ろし。なぜうまく話せないのか。悩んでしまうあなたの必読書!
まえがき
日々繰り広げられる、0・1秒単位の競争
10分の激論を464ページで解説するように
言語漬けの青春
謎解きの鍵は「文脈」から
第一章 コミュニケーション上手になるための「語用論」
イギリスの裁判所を揺らした発言
大ポカした就職面接「会いたい人は?」
謎まみれの解釈メカニズム
ことばとは、世界への働きかけである
「させていただく」を「食べログ」で研究する
「会話は協調して行なえ」グライスが説いたこと
福本伸行『アカギ』でわかる語用論
「それはそれ、これはこれ」がなぜ成立する?
芸人のボケを語用論してみる
発話の解釈を導き出すには?
発話の解釈はコスパで決まる
コミュニケーションモデルは「暗号解読」から「推論」へ
文脈を科学する3つの知見
第二章 ことばには“奥行き”がある
インドの新聞に躍った見出し「ドナルド・トランプの死」
言語学者が最も注目する「単語の並べ方」
天才ソシュールの言っていたすごいこと
未知の言語の記録に燃えるアメリカ構造主義言語学
引用ランキングトップで唯一存命。言語学者チョムスキーの仕事
難解なのにハマる人が多い「生成文法」
文は何からできている?
樹形図の上がる下がるに興奮する
文の理解には二次元的な情報が必要だ
視覚思考者(ビジュアル・シンカー)が教えてくれること
伝言ゲームにはノイズが入るもの
第三章 あなたは「ネコ」の意味さえ説明できない
君の言っているのとぼくの言うのとは意味が違うんだよ
意味の研究、難解すぎる
「見えないものは扱わない」学派もある
意味は要素を列挙してもわからない
指さしたらあとは「ネコ」の意味なんて知らない
難解で地味だけど重要な形式意味論
類似性を見つけてまとめるカテゴリー化
「言語は比喩でできている」認知意味論
僕たちは「時間」を比喩を通して理解している
日本語の単語の意味も考える
「近づく」と「近寄る」はどう違う?
検索エンジンの予測のように、頭に浮かぶことば
言語はコミュニケーションのツールの一つにすぎない
第四章 言語化の隠れた立役者たち
「なぜサッチャーはこうも頻繁に話を遮られるのか」論文
自殺予防センターで生まれた「会話分析」
雨粒が水面に落ちる過程
会話分析の研究者が最初に注目したこと
会話の順番交替は先読みできる
聞き手の沈黙時間を話し手はどうとらえるか
「はい」より「いいえ」の方が沈黙が長い
沈黙は重要な情報となる
なぜリモート飲み会は定着しなかったのか
まあ、あのー、そのー、こう、えーっと……
「あのー」と「えーと」の違い
「うーん」はどんなときに使うか
僕たちがフィラーを口にするわけ
電話中についしているジェスチャーの正体
ジェスチャーを封じられるとフィラーが増える
ことばとジェスチャー、どっちが先か
あまりに鮮やかな実験
オノマトペは「言語化されたジェスチャー」
言語のサブ的要素が言語化に役立つ
僕らは日々ものすごいことをやっている
終 章 世界は広い! 驚きのコミュニケーション
なんでそうなる? あの国この国
日本でも違う、東北と近畿
自閉スペクトラム症の子どもは津軽弁を話さない?
コミュニケーションの「普通」って?
「彼女は海が好きだ」「彼女は海が好きだった」今も付き合ってるのは?
「ね」と「よ」の違いは難しすぎる
発話における「普通」を考える
発音時の自分の舌、唇、口の動き
自己紹介のたびに気が重くなる吃音当事者
たまたまできる発音という不思議
日本語話者の会話は世界的せっかち
会話の流暢さと能力主義の関係
言語学を学んでわかった、言語の限界
「自分と出会い直す」という希望
あとがき
発酵デザイナーとの散歩
いびつな本です。でも
壮大な問いに挑戦してみる
言語学に携わる方々に感謝を込めて
【後注】
もっと知りたくなった読者のための30冊
判型 四六判
頁数 240ページ
【著者プロフィール】
水野太貴 ミズノ・ダイキ
1995年生まれ。愛知県出身。名古屋大学文学部卒。専攻は言語学。出版社で編集者として勤務するかたわら、YouTube、Podcastチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で話し手を務める。同チャンネルのYouTube登録者数は36万人超。著書に『復刻版 言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』(バリューブックス・パブリッシング)、『きょう、ゴリラをうえたよ 愉快で深いこどものいいまちがい集』(KADOKAWA)がある。
【書評】
最高の浅瀬弾丸ツアーみたいな本
堀元見
良質な知識エンタメには、必ず良い問いがある。
『会話の0.2秒を言語学する』はそれを改めて実感させてくれる本だ。
「会話のターンが切り替わるわずか0.2秒の間に、脳内で何が起きているのか」という問いは極めて分かりやすく魅力的で、読者を自然に言語学の世界にいざなってくれる。語用論だの統語論だの意味論だのという、門外漢からは何をやっているかすら分からない言語学のジャンルに次々に足を突っ込んだかと思ったら次々に離脱する。ひとつの問いを追いかけていくうちに、なんとなく色々なジャンルを浅く広く知れて得した気分になる。七つの海の浅瀬で遊び回る弾丸ツアーみたいな本だ。
著者の水野と僕はもう5年近く「ゆる言語学ラジオ」というYouTubeチャンネルをやっている。僕たちは昔からこういう「浅瀬弾丸ツアー」みたいなコンテンツが好きで、その共通点があったから、一緒に知識エンタメYouTubeを始めた。
世間ではゴチャゴチャにされがちだが、「教養系YouTube」と「知識エンタメYouTube」はまったく違うものである。前者は勉強のためにマジメに見るイメージで、そこには崇高な目標がある。VUCAの時代を生き抜く21世紀型人材になるために見ている人が多い。一方、後者はエンタメとしてゆるく見るイメージで、特に崇高な目標はない。VUCAの時代を生き抜くためにではなく、おもしろいから見ている人が多い。僕たちは後者の方が好きだったので、後者として始めた。
知識エンタメに必要なのは、魅力的な問いだ。問いがしょぼいとエンタメとして成立しない。「語用論とは何か?」ではダメだ。ほとんどの人が気にならない問いでは、エンタメにならない。
本書の問い「会話のターンが切り替わるわずか0.2秒の間に、脳内で何が起きているのか」は、世界中の人に関係があり、言われてみると誰もが気になる魅力的なものだ。そして、徹頭徹尾この問いに沿って議論が展開されるので、各ジャンルの浅瀬にしか立ち入らない。「語用論の全体像」みたいなものを深く理解する必要がなく、問いに関係ありそうな知見だけを浅く拾っていく。これがありがたい。
「網羅的である」というのは専門書においては良いことだが、知識エンタメにおいては悪いことだ。「A氏が提案した7個の法則」みたいなのが出てきたとき、全部を丁寧に解説されると僕は飽きてしまう。「おもしろい法則だけ教えてほしいな。ひとつかふたつでいいから」と思ってしまうのだ。勉強したいのではなくおもしろがりたいだけの人間はとかく不真面目である。全容など知りたくないので、とにかくおもしろいところだけ見せてほしい。本書は、そんな下世話なニーズを満たしてくれる。
水野は、浅瀬弾丸ツアーを率いるのに最適なツアーコンダクターだ。彼は「会話の0.2秒」を軸にして、正しくルートを設計してくれた。立ち寄るスポットを過不足なく選定し、それぞれのスポットでの正しい観光ガイドもつけてくれた。「英国の元首相サッチャーはやたらとインタビュアーに会話を遮られる。それは彼女のイントネーションのせいだった」のように、興味深い具体例から自然とその海に入れるようになっている。彼の観光ガイドのお陰で、浅瀬にしか入っていないのに、その海の楽しさは十分理解できる。弾丸ツアーだからこそ、コンダクターの腕が問われるのだ。
そして、彼に連れ回されるままに色々な海を見ていくと、なんとなく世界全体の見取り図ができ、自分なりの感想が湧いてくるだろう。「会話ができているの、奇跡だな」と素直に思うかもしれないし、「この会話の仕組みをハックすれば営業成績を上げられる」と思うかもしれない。豊富な参考文献が収録されているので、気になる海があればもっと深く入ってみてもいいだろう。ツアー旅行で満足した後は、自分なりの旅を設計すればいい。ちなみに僕は大学でコンピュータサイエンスをやっていたので、「俺もコンピュータを題材に同じ本を書けるな。Amazonの購入ボタンをクリックしてからの0.2秒で何が起きているか、という本を書こうかな」と次作の構想を膨らませてしまった。そういう刺激に満ちた本である。
ところで、水野と飲んでいると「人間的な深みがほしい。俺の人生は浅すぎる」とよく言っている。彼は浅瀬弾丸ツアーを極めすぎて、人生においても浅瀬から出られないらしい。彼が人生の深みを犠牲にして書き上げた至極の浅瀬弾丸ツアー本を、あなたもぜひ手にとってみてはいかがだろうか。
(ほりもと・けん)
波 2025年9月号より 単行本刊行時掲載
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