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暗やみの中で一人枕をぬらす夜は

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『暗やみの中で一人枕をぬらす夜は』
ブッシュ孝子全詩集

若松英輔 解説

暗やみの中で一人枕をぬらす夜は
息をひそめて
私をよぶ無数の声に耳をすまそう
……夜の闇にこだまする無言のさけび
あれはみんなお前の仲間達
暗やみを一人さまよう者達の声
沈黙に一人耐える者達の声
声も出さずに涙する者達の声
――本書より

誰でも、年齢を重ねれば危機と呼ぶべき時節に至る。私はそうした日々に彼女の詩に出会った。ブッシュ孝子の言葉と巡り会うことがなければ、今、こうして言葉を紡いでいるかどうかも分からない。書くことすら、どこかで諦めていたかもしれない。私は彼女の言葉に救われたのである。
――若松英輔

夜の闇にこだまする無言のさけび――。若くして病を患い、闘病中にドイツ人青年と結婚した女性が、命を終えるまでの五か月間にノートにつづった詩のことば。かつて河合隼雄氏、神谷美恵子氏が著作で紹介し、多くの読者が復刊を待望するブッシュ孝子の詩集を、未発表の作品も収録し刊行。若松英輔による解説を付す。

目次
夢の木馬1 (旅立ち)
夢の木馬2 名も知らぬ異国の港町にて
夢の木馬3 雑踏
夢の木馬4 廃屋
夢の木馬5 夢の中の少年
せんせい 私に教えてください
美しい言葉が次々と浮かび出て
夢の中で
夢の中で
まあちゃん
この町はきらい
素直なことばで
人生
今日の私は酔っ払っている
おばあちゃんがコスモスをつむ
たより
もしも 私が死んだら
先生 私の病気を

母に
かわいそうな私の身体
私は信じる
汽車が都会に近づくにつれて
ファーラーさん
都会
新米の詩人へ
小さな詩
昔語り
私に
わたし
私のために生きようという人がいる
先生がいった
神様
あなたに
赤いガーネットのロザリオを首にかけよう
私は ひとり進み出る
折れたバラ
みなさんどうぞ 私を守ってください
(日よう日)
メルヒェン
文化生活
神様のお顔
愛ということば
私には愛について語ることなどはできない
かわいそうなたかこちゃん
みなさん
あやまち
マールブルグの少年
Hospital of the National Cancer Center
待合室にて
待合室にて
青い目の(日本)人
私の空
ジギーとクリステル
おばあちゃん
おばあちゃんのいびき
私の身体はモルモットみたい
シャンソン
この道はどこに行く道
いのり
ハイデルベルク
らせん階段
九月の一日
マルセーユの歌
暗やみの中で一人枕をぬらす夜は
赤や黄色や緑の車をつらねた
高い空の上で
追いかけっこ
十七歳
家にもどる道がどうしてもわからなくて
九月の庭は色とりどりの思い出で一杯
私の身体が痛みと闘っている時は
秋もさかりのこんな一日は
詩は生命から生まれる
ものさし

誰でも人は自分の奥深く
死ぬのがこわくないといえば
口にも出せずに涙も見せずに
いい話をしてかえってきた日は
凡人なる凡人は
この私ですら耐えがたい
一陣の強い風が
昔 こわい夢に驚いて真夜中に目が覚めると
S先生に
戦いは戦場ばかりではない
朝 しじまを破るベルの音
ゆきんこが
病院の一室でむかえる
迷子の小鳥は
ああローソク
失うという事を

魂のうた――詩人ブッシュ孝子の境涯 若松英輔
略年譜

ブッシュ孝子(ブッシュタカコ)
1945年3月20日生まれ。67年、お茶の水女子大学家政学部児童学科を卒業し、大学院修士課程に進学。児童心理学を学び、自閉症児の治療法を習得するためドイツへ留学。留学中にヨハネス・ブッシュと出会い、人生を共にする約束を交わす。70年8月に帰国し、からだに異変を感じて病院へ行く。71年年2月に乳がんと診断されて入院し、手術を受ける。同年9月、来日したヨハネス・ブッシュと結婚。72年7月に二度目の手術を受けるが、翌年11月に病の再発により入院。かねて「童話を書いてみたい」と願っていた孝子は、73年の9月9日から詩をノートに記しはじめる。74年1月27日、永眠。享年、28。同年8月、ブッシュ孝子詩集『白い木馬』(サンリオ出版)が刊行された。

若松 英輔(ワカマツエイスケ)
詩人・批評家・随筆家。1968年生まれ。著書に『悲しみの秘義』(文春文庫)、『詩集 燃える水滴』(亜紀書房)など多数。『小林秀雄 美しい花』で角川財団学芸賞と蓮如賞を受賞。

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