



















1978アメリカーナの探求
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『1978アメリカーナの探求』Study of Americana: Washington, D.C. Region 1978
野上眞宏|Mike Nogami
B4変型 252mm x 279mm
120ページ 上製
収録作品 83 点(カラー)
和英併記
表紙デザイン 大槻淳子
デザイン+DTP 佐藤豊
翻訳 今枝麻子
1974年に27歳で単身渡米した野上眞宏が、「これなら撮り進めていける」と確信する被写体と出遭ったのは、移住して4年目となる1978年のことだった。当時、野上はワシントンD.C.に近いヴァージニア州アーリントンのアパートに住まい、昼間はD.C.のFBI本部の隣のビルにあったサンドイッチ店で生活の糧を得ていた。毎週末、ホンダシビックを運転して自宅からそう遠くない場所に撮影に向かった。ヴァージニア州のアーリントンやリッチモンド、ワシントンD.C.の市街地、メリーランド州のシルヴァースプリングやバルチモア、国道一号線沿い一帯が《アメリカーナの探求》の撮影エリアとなった。住み始めた当初は退屈な街とさえ感じていたワシントンD.C.近郊のあちこちで、時が止まったような、独特の雰囲気が野上を待っていた。
野上が目をとめ、心惹かれたのは、特別な事象ではなく、凡庸さのなかにある魅力だ。時代から取り残されたような、人々とともに長い時間を経てきたことが見て取れるあたりまえの光景――低層の建物が続く小都市の街並みでひっそり営業している洋品店や理髪店や酒屋、路上の標識、アールデコ調建築の映画館、誰もが車で日常的に立ち寄るスーパーやガソリン・スタンドやダイナー、そして看板やパーキングメーター。どれもがノスタルジックでありながら新鮮だ。「《アメリカーナの探求》は、僕が見たアメリカらしさについての視覚的探求」と語る野上がこの地域で発見した魅力は、高校生のときに交換留学生として1カ月滞在したアメリカの他の主要都市とも、その後、1979年から2015年まで住むことになるニューヨークとも、さらには子供の頃から映画や音楽を通して親しんでいた憧れのアメリカとも違っていた。遠くない将来消えてしまいそうな光景は、それが滅び去る前にシャッターを押すことを写真家に促したのだった。
渡米前の野上の作品で最も知られているのは、友達だった細野晴臣との交流から始まった「はっぴいえんど」のドキュメントなど、60年代末から70年代初頭の東京のカルチャーシーンをとらえたモノクロ写真だが、その当時から、野上はいずれカラーで撮りたいと感じていた。1975年にロサンジェルスの美術館でウイリアム・エグルストンのオリジナルプリントを見た経験は、願望を実践に移行する後押しとなった。良質のエグルストンのカラープリントを前に、野上は「僕もカラーで撮らなきゃ!」と思ったという。1980年代初頭に「ニューカラー」と呼ばれることになるアメリカのカラー写真の潮流を、野上は1970年代半ばに肌で感じていたことになる。
本書のためにエッセイ「夢に現れた本物たち」を寄稿した、ステュアート・ムンロは、写真史的な流れとは別の視点から野上の写真を見る。60年代に消費社会の象徴を挑発的にアートに持ち込んだアンディ・ウォーホル、車社会が生み出したアメリカの郊外風景を論じた建築家のデニス・スコット・ブラウンとロバート・ヴェンチューリなど、視覚文化的な時代背景を野上の作品に関連付けて論じつつも、ムンロは人物がメインの被写体として登場することのないこれらの写真の細部に潜む気配に注目する。《アメリカーナの探求》は、1978年のワシントンD.C.近郊の確かな現実の記録であるだけでなく、その光景の細部に、ボルヘスがいうところの「気まぐれで、偶然の、順序のない、夢のなかの事物」によって紡ぎだされたような物語の断片が潜んでいることをムンロは発見していく。
なお、本書巻末収録自筆年譜は、野上を知るばかりではなく、60年代に日本で写真を目指した一人の青年がどんなふうに写真と接し、撮影を継続してきたかを知る楽しい読み物でもある。
野上眞宏
1947 年、東京生まれ。1970年、立教大学社会学部卒業。1971年に鋤田正義事務所でアシスタントをつとめ、翌年からフリーランスの写真家となる。1974年に渡米、ロサンジェルスに住む。東海岸に移り、ワシントンD.C.、ヴァージニア州アーリントンに住んだ後、1978年、ニューヨークに転居。1985年、グリニッジヴィレッジで写真ラボ「Fujiyama Papa」を開業、1994年まで営業した。
2015年に帰国。現在、東京在住。これまでに数多くの個展を開催。最近の展覧会に「Study of Americana」ギャラリー・ルデコ、「Parking, NYC 1979-84」Popularity Gallery。主な著書に『New York-Holy City』(美術出版社/1997)、『Snapshot Diary』(二分冊/ブルースインターアクション/2002)、『Mike Nogami’s Snapshot Diary』(iPADアプリ/2014)、『Shibuya 1999』(Zen Photo Gallery/2016)、『Blue: Tokyo 1968-1972』(Osiris/2018)『ゆでめん』(ミュージック・マガジン社/2021)。
ステュアート・ムンロ Stuart Munro
1974年、英国生まれ。2000年、ユニヴァーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)バートレット建築学部修士課程修了。『Apartamento』『Art Agenda』『Art Asia Pacific』『ARTnews』『Art Review Asia』『Mousse Magazine』『The Wire Mgazine』はじめ多くのメディアに寄稿。
アメリカの抽象画家、ネイサン・ヒルデン(展覧会カタログ)、ベルギーのアーティスト、ピーター・ヴェルメッシュ(Perrotin Tokyo)、映画作家、松本俊夫(香港、Empty Gallery)など多くのアーティストについて執筆。現代アートとカルチャーのプラットホームComi Comiを運営、編集と執筆に携わっている。
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